あいちトリエンナーレ2019 私的ガイド 

私的にあいちトリエンナーレのご案内をします。情報の詳細は公的なものでお確かめください。

<記者が見たトリエンナーレ>(中) アートとバリアフリー 中日新聞9月14日文化面

<記者が見たトリエンナーレ>(中) アートとバリアフリー 

2016/9/14 朝刊

筆談で展示解説を受ける黒田和子さん(右)=名古屋・栄の愛知県美術館

 見たことがない形に驚き、不思議な音に耳を傾ける。「あいちトリエンナーレ2016」の会場を回りながら自分が示していた反応は、誰にとっても当たり前の行為ではない。難解な作品も多い現代アートの世界で、目と耳から情報を得られない身体障害のある人は、作品とどう接しているのか。トリエンナーレを機に考えたいと思った。

 トリエンナーレ事務局では二〇一〇年の第一回から、視覚と聴覚が不自由な人向けの展示案内を続ける。今回は鑑賞プログラムの一環として申込制の案内ツアーを企画した。視覚障害聴覚障害の人向けをそれぞれ二回。今月初旬にあった耳に障害のある人向けのツアーには黒田和子さん(69)=愛知県難聴・中途失聴者協会理事長=ら六人が参加した。

 「何か音が聞こえていますか」。愛知県美術館の展示室。金属や布製の動くオブジェが並ぶ高橋士郎さんの立体作品「レーモン・ルーセルの実験室」に目を凝らして、黒田さんが案内の係員に尋ねる。「機械が動くような音です」。筆談の答えを読み、うなずいた。男性が音声のない映像だけでさまざまな感情を伝えるディレク・ウィンチェスターさん(トルコ)の「A型ボツリヌス毒素」の前では「私たちはいつも声を聞かず人の感情を読み取るので、その状態が作品になっているのは興味深い」と感じ入っていた。

 「現代アートは説明がないと意図が分からない作品も多く、筆談の案内や質疑応答は助かる」と黒田さん。改善点は「聴覚障害者は三半規管が不自由で暗闇でバランスを崩すことがあるので、展示室が暗い作品は事前に知らせてほしい」「発話も堪能な人から筆談もできない人まで、見た目では分からないが障害の形はさまざま。きめ細かい対応をしてほしい」などと指摘した。

 視覚障害者向けの案内は、名古屋YWCAの会員でつくるボランティア団体「アートな美」が担当する。作品の題材や構図を細かく口頭で説明するほか、点字の解説文や、線が浮き出す「立体コピー」で描いた図解を触ってもらう手法。直接触れられる作品もある。

 平川幸子代表(67)は「障害者の方の作品への触れ方はとても繊細。見ただけでは分からないことを、私たちが逆に教えてもらうこともある」と普段の鑑賞の様子を話す。トリエンナーレについては「町中にたくさんある会場も案内したい。簡単な口頭説明で良いので係員にも対応してもらえれば、より気軽に楽しめる」と提案した。

 鑑賞プログラムを担当する伊藤優子チーフ・エデュケーターは視聴覚障害者への発信について「作品の楽しみ方に大きな差はなく、伝え方が異なるだけ。健常者も障害者も個性に応じた感じ方を共有し新たな発見をして、日常の糧となる場を提供できれば」と話した。当事者の声を反映させたサポートの充実は必要だが、鑑賞を「補助する」のではなく、感じているものを伝え合うという意識を根底に持つことで、互いの世界がもっと豊かになるのではないだろうか。

 (川原田喜子)

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 鑑賞方法が幅広い主な作品

 【触る】ジョアン・モデ「ネットプロジェクト」、ヴァルサン・クールマ・コッレリ「バープ・オブ・ジ・アース」、オスカー・ムリーリョ「高度、フリークエンシーズ、触媒-THEM」(一部)、西尾美也+403architecture[dajiba]「パブローブ」、頼志盛「境界・愛知」、柴田真理子作品(一部)、ヨルネル・マルティネス「P350」、リビジウンガ・カルドーゾ「日蝕現象」

 【聴く】クリス・ワトソン「グレートサークル」、キオ・グリフィス「ホワイトハウス」、ハッサン・ハーン「ドン・タク・タク・ドン・タク

 【香る】関口涼子作品(スパイスを展示)

 

緑の文字の作品は岡崎会場で体験できます。

関口涼子さん、柴田眞理子さんの 作品は、石原邸のみです。