あいちトリエンナーレ2019 私的ガイド 

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不自由展混乱、見えぬ出口 あいちトリエンナーレ 中日新聞 2019/9/1 紙面から

「表現の不自由展・その後」の中止に抗議し、変更されたモニカ・メイヤーさんの展示。日常で感じる性差別や偏見を来館者が用紙に書き、木の枠(奥)につるす作品だが、用紙を床に散らし、声を上げる場を奪われた状態の表現に変えた=名古屋市中区の名古屋市美術館

 愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」は、一日で開幕から一カ月を迎える。旧日本軍の慰安婦を象徴する少女像などを展示した企画「表現の不自由展・その後」が、三日目で中止となって以降、出品作家のボイコットも相次ぎ、異例の経過をたどっている。事態は収まる気配がない。

 

■波紋 トリエンナーレは美術や音楽など、五つの事業からなり、不自由展は、メインである国際現代美術展の一企画だった。美術館などで規制を受けた作品を展示することで「思考や議論を促したい」と、芸術監督・津田大介さんが提案した。

 だが出品作が明らかになった七月三十一日以降、抗議の電話やメールが事務局に殺到。菅義偉官房長官文化庁補助金見直しを示唆するなど、圧力が強まった。京都アニメーション放火事件を連想させる脅迫ファクスも届き、実行委は八月三日、危機管理を理由に中止を決めた。

 この対応に、異を唱えたのが国際現代美術展に出品する他の作家だ。海外作家の一部は「検閲」への抗議として、不自由展の再開まで自作を展示しないよう求める共同声明を発表。二十日までに計十一組が、展示を変更、または中止した。

 名古屋大の栗田秀法教授(美術史、博物館学)は「作家たちの断固たる決意を好意的に考えたい。結果として主催者が検閲した形だが、そもそも表現の自由を理解しない政治家の発言が、ネット右翼的な人を脅迫に焚(た)きつけたことが一番問題」と話す。

■確執

 

 騒動が激化した背景には、トリエンナーレ実行委会長である大村秀章愛知県知事と、会長代行の河村たかし名古屋市長との個人的な確執がある。二人はもともと盟友だったが、大規模展示場の新設など、県と市双方に関連する事業を巡り、次第に関係が悪化。近年は、名古屋城天守木造復元事業でも、意見の食い違いが目立っていた。

 不自由展では、展示内容を直前まで知らなかった河村氏が、二日に会場を視察。「日本国民の心を踏みにじる」と少女像の撤去を要請した。対して大村氏は、この行為を「表現の自由を定めた憲法二一条違反の疑いが極めて濃厚」と批判。その後も河村氏が、県の設置した検証委員会を「チャラにして新しい検証組織を作るべきだ」と否定するなど、応酬が続く。二人の関係は、次回のトリエンナーレの開催も左右しそうだ。

 

■工夫

 

 出品作家だけでなく、国内外の美術関係者や、言論、学術団体などが、不自由展中止に抗議する声明を続々と発表している。実行委が来場者に実施したアンケートでも、再開を望む声は多いという。

 とはいえ再開には、困難もつきまとう。このままの状態では、政治家や匿名の抗議の再燃は避けられない。電話対応や警備体制の変更など、新たな工夫が必要になる。

 大村氏は九、十月に、表現の自由について考えるフォーラムを開くと表明した。作家の中には、独自に市民と意見交換する場を設けた人もいる。

 津田さんも「忸怩(じくじ)たる思いはある」としながら「表現の自由や美術館のあり方をあらためて考える貴重な機会にはなっている」と語る。だが再開の見通しについては、言及を避ける。

 十月十四日の会期終了まで、残された時間は多くない。まずは九月のフォーラムでの議論が注目される。

 (谷口大河)

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