あいちトリエンナーレ2019 私的ガイド 

私的にあいちトリエンナーレのご案内をします。情報の詳細は公的なものでお確かめください。

中日春秋  2019/8/5 紙面から (コラム)

一八六三年、ナポレオン三世はサロン・ド・パリ(官展)に選ばれなかった作品のみを集めた「落選者展」を開催することにした。落選者の不満を受けてのお情けだったそうだ

▼「落選者展」においてもひどく批判された作品がある。マネの「草上の昼食」。男性二人と裸の女性が二人。当時、裸体を描くのは歴史画などに限られていたが、日常の光景を描いた「草上の昼食」はその常識に反していた。歴史的名画もかつては「いかがわしい」「不道徳」とたたかれた

▼革新的な芸術は世間に対し、いつだって挑発的で見る人によっては不快なものかもしれない。そうでなければ新しさも衝撃も生まれない。「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」。わずか三日で中止に追い込まれた

▼旧日本軍の慰安婦を象徴する少女像などの展示への批判が続出。テロをにおわせる脅迫を前にし、幕を下ろさざるを得なかったか

▼物議を醸す作品に対して見る者の賛否が分かれるのは自然なことである。気に入らぬ作品を批判するのも自由だが、卑劣な手段で展示そのものを妨害するやり方は一方的な口封じに他ならぬ。やすやすと表現の自由が傷つけられた。そういう時代が息苦しい

▼この顛末(てんまつ)自体が日本という画布に描いた一つの作品なのだろう。不気味な色調の作品の題名は「不寛容」か。二度と見たくない。