あいちトリエンナーレ2019 私的ガイド 

私的にあいちトリエンナーレのご案内をします。情報の詳細は公的なものでお確かめください。

巨大アート 街を楽しく 美術家   マナビバ(小中学生向き)2019/8/25 中日新聞朝刊

壁画(へきが)の前で鷲尾(わしお)さん(右)を取材(しゅざい)する小学生記者(きしゃ)=いずれも名古屋(なごや)市西区(にしく)の円頓寺商店街(えんどうじしょうてんがい)で

今、愛知県内(あいちけんない)で行われている3年に1度(ど)の国際芸術祭(こくさいげいじゅつさい)「あいちトリエンナーレ2019」。国内外から90組以上(いじょう)のアーティストが参加(さんか)しています。その1人が地元出身(しゅっしん)の美術家(びじゅつか)、鷲尾友公(わしおともゆき)さん(41)です。名古屋(なごや)市西区(にしく)の円頓寺商店街(えんどうじしょうてんがい)で、小学生記者(きしゃ)が巨大壁画(きょだいへきが)の制作現場(せいさくげんば)を取材(しゅざい)しました。

 鷲尾(わしお)さんって、どんな美術家(びじゅつか)なんでしょうか。それを知るヒントは、街中(まちなか)にありました。

 記者(きしゃ)たちはまず、名古屋(なごや)市内に点在(てんざい)する鷲尾(わしお)さんのストリートアートを見て回りました。巨大(きょだい)な女の子が街(まち)を見下ろす「シスターズ」や、お店のシャッターに描(えが)かれたキャラクター「手君(てくん)」。美術(びじゅつ)で街(まち)を楽しくしている鷲尾(わしお)さんへの興味(きょうみ)が高まります。

 次(つぎ)に、円頓寺商店街(えんどうじしょうてんがい)へ。建設現場(けんせつげんば)のような足場が組まれ、とび職人姿(しょくにんすがた)の鷲尾(わしお)さんが壁(かべ)にはけを走らせていました。圧倒(あっとう)されそうなスケール。壁画(へきが)は野外ステージの背景(はいけい)となります。

 タイトルは「MISSING(ミッシング) PIECE(ピース)」。自分に足りないものを受(う)け入れ、支(ささ)え合う姿(すがた)を描(えが)きました。ポップな絵柄(えがら)を得意(とくい)としてきた鷲尾(わしお)さんにとっては、新たな挑戦(ちょうせん)でした。

 制作(せいさく)前に、台湾(たいわん)に1週間滞在(たいざい)。自分のことを誰(だれ)も知らない場所(ばしょ)で初心(しょしん)に帰り、自分を見つめなおしてスケッチを重(かさ)ねました。そこで浮(う)かんだイメージをもとに、1カ月で巨大(きょだい)な壁画(へきが)を描(えが)きあげたのです。

 勉強(べんきょう)も部活(ぶかつ)も中途半端(ちゅうとはんぱ)だったという鷲尾(わしお)さん。「好(す)きな絵だけは続(つづ)けようと思った。だけど1枚(まい)の絵を完成(かんせい)させられないことも。何かを続(つづ)ける忍耐力(にんたいりょく)が自分にはないんじゃないか」

 そのコンプレックスが、創作(そうさく)のエネルギーになりました。造形(ぞうけい)のアルバイトや依頼(いらい)されたデザインの仕事(しごと)をしながら、少しずつ、自分の作品制作(さくひんせいさく)の割合(わりあい)を増(ふ)やしていきました。

 「鷲尾(わしお)さんにとって、絵とは何ですか」。記者(きしゃ)から質問(しつもん)されると考え込(こ)み、「まあ、仕事(しごと)かなあ」と答えました。「お金のためだけじゃない。1日何もできないこともある。常(つね)に不安(ふあん)と闘(たたか)っているし、だから続(つづ)けているのよ」とも。どういうことでしょうか?

 独学(どくがく)で描(えが)き続(つづ)けて20年あまり。大学で美術(びじゅつ)を学んでおらず、画廊(がろう)や会社などにも所属(しょぞく)していません。そのことで、「不安(ふあん)や孤独(こどく)を抱(かか)えている」と鷲尾(わしお)さんは話します。

 それでも絵を描(えが)いていると「光が差(さ)してきて、自分に自信(じしん)を持(も)てる瞬間(しゅんかん)がある」。創作(そうさく)が一気に進(すす)んで、ゴールが見える快感(かいかん)を味(あじ)わう瞬間(しゅんかん)。そこにたどり着(つ)くまでの苦(くる)しさがあるから、創作(そうさく)は「仕事(しごと)」なのだと説明(せつめい)しました。

 取材中(しゅざいちゅう)はそんなそぶりはまったく見せず、友達(ともだち)のように接(せっ)してくれた鷲尾(わしお)さん。サラサラっと記者(きしゃ)たちのノートに「手君(てくん)」を描(えが)き、いたずらっぽく笑(わら)いました。 (構成(こうせい)・宮崎厚志(みやざきあつし))

これまでの歩み

 

1996年 高校のデザイン科を卒業後(そつぎょうご)、造形業(ぞうけいぎょう)のアルバイトをする

 99年 アメリカのニューヨークに1カ月滞在(たいざい)したことをきっかけに、音楽イベントの広告(こうこく)デザインを描(えが)き始(はじ)める

2007年 鷲尾友公(わしおともゆき)デザイン研究室(けんきゅうしつ)を立ち上げ、CD(シーディー)ジャケットやポスターなどの依頼(いらい)の仕事(しごと)を本格的(ほんかくてき)に始(はじ)める

 12年 自分の作品(さくひん)づくりに集中(しゅうちゅう)し始(はじ)める

鷲尾(わしお)さんから

 

 絵を仕事(しごと)にしたいと思ったら、美術(びじゅつ)大学を目指(めざ)した方がいい。絵を描(えが)く基礎(きそ)ができるから。その上で、必要(ひつよう)なのは観察力(かんさつりょく)。日常(にちじょう)を違(ちが)う角度(かくど)から注意深(ちゅういぶか)く見てみると、気になるものを見つけることができますよ。人と出会うための行動力(こうどうりょく)も大事(だいじ)です。

取材に行って

 

 若杉悠登(わかすぎゆうと)(名古屋(なごや)市常磐(ときわ)小5年) 鷲尾(わしお)さんの作品(さくひん)は、美術館(びじゅつかん)に行かなくても見ることができ、身近(みぢか)に感(かん)じます。誰(だれ)でも見ることができる作品(さくひん)がアートだと思います。

 高瀬真奈美(たかせまなみ)(名古屋(なごや)市本郷(ほんごう)小5年) 「1日何もできない日もあり、常(つね)に不安(ふあん)と闘(たたか)っている」と話していました。表現(ひょうげん)する仕事(しごと)のやりがいと大変(たいへん)さを知りました。

 小宮山(こみやま)のどか(名古屋(なごや)市玉川(たまがわ)小6年) 取材(しゅざい)でたくさんの疑問(ぎもん)がわき出てきました。好(す)きなことを仕事(しごと)にするのは不安(ふあん)もあるけど、続(つづ)けることでなくせるのだと思います。

 伊藤紬(いとうつむぎ)(三重県桑名(みえけんくわな)市修徳(しゅうとく)小5年) 絵を描(えが)くための足場に上らせてもらいました。意外(いがい)と怖(こわ)かったです。ここではけを使(つか)って描(えが)いていると聞き、すごいと思いました。

 山浦(やまうら)はなの(三重県鈴鹿(みえけんすずか)市飯野(いいの)小6年) 絵がうまくなりたいので聞いてみると「よく見ること」と「シャーペンの芯(しん)を3B(ビー)、4B(ビー)にするといいよ」と教えてくれました。

 中田実伶(なかたみれい)(三重県紀北(みえけんきほく)町西(にし)小6年) 私(わたし)は窓(まど)にも植木鉢(うえきばち)にも絵を描(えが)くことがありますが、鷲尾(わしお)さんの作品(さくひん)にはとても驚(おどろ)きました。つくり出す仕事(しごと)がすてきだと思いました。